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(本当に千和ちゃん、最近ちょっとヘンよね・・・)
桑谷はバスタブの中で、膝を抱え込むような格好をして、
今日の出来事を考えていた。
手のひらでお湯を揺らして、波紋の広がる水面をぼんや
りと見やりつつ、半年前のことを思い出していた。

それは3月半ば、ボイクルで斉藤千和の誕生日を祝うため、
趣向を凝らした演出をしたときのこと・・・

ちわ「ぐすっ、ぐすっ・・・」
くわ「・・・千和ちゃん?」
ちわ「ぐすっ、なに・・・?」
くわ「ねぇ、千和ちゃん・・・?」
ちわ「だから、なによ・・・ぐすっ」
くわ「ちょっと、千和ちゃん。あなた本当に泣いてるの?」
ちわ「本当に泣いてんだよ!なんだよー、なっちゃん、酷いよ!」
くわ「何がよ?」
ちわ「こんな企画あるとは思わなかったよ!ママまで出てくるんだもん」
くわ「悪いけど千和ママの件は、あたしも知らなかったわよ」
ちわ「本当にー?」
くわ「だから、ディレクターのとーるさんに『一緒に仕事したことあります?』とか、マヌケなこと聞いてるじゃない」
くわ「それに、どこにタネ明かししてから、手品見せる人がいるのよ!」
ちわ「それはそうだけど・・・」
ちわ「やっぱりなめんなー、くやしー!マジ泣きしちゃったよ」
くわ「はいはい、泣かない、怒らない」
くわ「でも、四月からも延長になったし、それに・・・」
ちわ「それに・・・?あっ!」
くわ「そう、あたし達、一緒にユニットを組むのよ」
ちわ「そうだね、なっちゃん」
くわ「そうよ、千和ちゃん。だから、これからもよろしくね。」
ちわ「なっちゃん・・・」
桑谷は、優しい微笑みとともに、手を差し伸べてきた。斎藤は、
少しためらいがちに、こぼれんばかりの笑顔をそえて、桑谷の
手を握る。
桑谷は、斎藤の手を握りつつ、素直に泣いたり笑ったりできる
彼女を、羨望のまなざしでみつめていた。
(ヘンなのは私か・・・、彼女みたいに素直になれたら、
もっと「あの子」と上手にやってゆけるのかしら・・・?)

(でも、あの後がねえ・・・)
桑谷は体をひねると、バスタブの縁にあごを乗せて、その後を思い出していた。

ちわ「・・・でもねー、なっちゃ〜ん」
斎藤は突然怪しい猫なで声を出したかと思うと、握っている手に力を込めて。
ちわ「なっちゃんの誕生日のときに、絶対何かやってやる!」
くわ「あたしは絶対平気だもーん」
くわ「第一、あたしの誕生日まで番組が・・・、あっー、延長するんだ」
ちわ「あははーっ、なっちゃん、さっき自分で言ってるのにー」
くわ「ぎゃー、あたしってまるっきりバカじゃん」
ちわ「よーし、誕生日には騙してやるんだから」
くわ「へへーんだ、あたしは絶対騙されてやんないもんね」
ちわ「そんなことない!仕返ししてやる」
くわ「なにこの子、ちょームカツク!」
ちわ「なめんな、なめんな、なめんなー!!」
桑谷も握る手に渾身の力を込める。斎藤は、負けまいと
さらに力を込めて桑谷の手を握る。

握ると言うよりもはや、掴みあった手からは、ギリギリと音が
聞こえてきそうな程だ。
ちわ「・・・」
くわ「・・・」
二人「いったーい!」
お互い勢い余って、相手の手に爪を食い込ませていた。
ちわ「何すんだよー、なっちゃん」
くわ「それはこっちの台詞よ!千和ちゃん」
二人「・・・」
ちわ「・・・はははっ、何やってんだろ、わたし達」
くわ「・・・あははっ、ちょーおっかしー」
お互いに自分の手をさすりながら相手を見た二人は、思わず吹きだしていた。
ちわ「わたし達って似てるよね、なっちゃん」
くわ「ええ、全然嬉しくないのですけどね」
ちわ「なにそれー!?」
斎藤は怒るポーズを取って見せたが、相変わらずとても愉しそうに笑っていた。
くわ(本当に似てるわよ。強がりなところも、そのくせ弱いところもね。)
桑谷は、心の中でそうつぶやいていた。

弟「ちょっと、なっちゃん。いつまで風呂に入っているんだよ!」
物思いに耽っていた桑谷を、弟の声が現実世界に引き戻す。
くわ「なによ、うっさいわねー!」
さすがに、のぼせ気味になってきたため、バスタブから出ようとしたが、
ふと思い立って、外に向かい一喝する。
くわ「今出るけど、もし覗いたら、ただじゃ済まさないわよ!」
弟「誰が覗くか!なっちゃんのヌードなんか、金を貰ってもご遠慮願いたいね。」
くわ「言ったわねー!このマセガキッ!」
弟「いいから、早く出ろよ・・・」
バタバタと言う足音とともに、声が遠ざかってゆく。
くわ「まったく・・・、姉弟ともに、素直じゃないか・・・」
桑谷は一人つぶやくと、バスタブを出る。
白い肌には雫が真珠のように輝いていた。