ちわ「ふにー、やっと終わったよ〜」
斎藤は気の抜けた声を出して、手を前に伸ばし机に覆い被さる。
彼女は、前期試験代わりに出されていた夏休み中の課題レポートを、案の定やり忘れていた。
そのため、担当教授に泣き落としをかけて、締め切りを猶予してもらったのである。
やっとのことでレポートを書き上げたので、ようやく人心地ついたのであった。
ちわ「本当、わたしってば、自分で自分の首絞めているね〜」
ちわ「・・・さて、どおしよっかなー?」
まだ寝るのには早い時間である。その時、自分の携帯が目に留まった。
ちわ「そうだ、なっちゃんって、先週の日曜日もお仕事だったんだよね。」
ちわ「どうだったんだろう?ちょっとメールでも送ってみよっと」
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なっちゃん、ちわちわー。
日曜日のお仕事はどうしでしたか?
教えて欲しいなー。
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ちわ「えいっ、送信!」
ちわ「うーん、返事くるかな?」
ちわ「・・・あー、なっちゃんのことだから、またとんでもない時間にかけてくるかも・・・」
ちわ「うわー、どうしよう。困ったな。でももう送っちゃったからなー。」
ちわ「なっちゃーん、早く返事してよねー!!」
とりあえず、東京の方に向かって叫んでみる、斎藤であった。
斎藤は、そわそわしながら、レポートを書くために散乱した机の片付けていた。
ちわ「やばいよ〜、なっちゃん、本当に明け方だよー。」
その時、斎藤の心を知ってか知らずか、携帯の着信音が鳴る。
ちわ「よ、よかったー、なっちゃんからだ。『もしもしー、なっちゃん、ありがとーっ!!』」
くわ「もしもし、桑た・・・ な、何!?千和ちゃん、どうしたの?」
ちわ「いーえ、こっちの話でーす」
くわ「千和ちゃん、何だか本当に、ご機嫌じゃない」
ちわ「うん、ようやくやり残していた勉強を終わらせたからね」
くわ「なーにー?もしかして、やり忘れていた夏休みの宿題とか?」
ちわ「・・・、なっちゃん、何で分るんだよーっ!!」
くわ「当りなのかい!」
ちわ「だってしょうがないじゃん!夏休み中は"coopee"で忙しかったんだよ」
くわ「全く、どうしようもない子ですねー。まあ、いいわ。ところで公録の話聞きたいんでしょ?」
ちわ「そ、そうだよ。わたしの話はどうでもいいから、公録、公録!」
くわ「はいはい、分りました。ところで何から聞きたい?」
ちわ「えー、そうだな。場所とかかな・・・?」
くわ「・・・ちょっと、千和ちゃん。何の公録かは分ってるの?」
ちわ「日高のり子さんと長谷川のび太さんの『ノン子とのび太のアニメスクランブル』でしょ?」
くわ「そうそう、でも何だかすごく説明口調な言い方ね」
ちわ「・・・まあ、色々あるから」
くわ「なんだそりゃ?さて、えーと、場所か。場所はサンシャインシティの噴水広場ステージ」
ちわ「あー、あのステージが地下にあって、吹き抜けになっているところだっけ?」
くわ「そう、だからステージ正面だけじゃなくて、吹き抜けになってる上の階からも、みんな覗き込んでいたわよ」
ちわ「へーっ、じゃあお客さんとかは一杯だったんだ」
くわ「うん、凄かったわ。後でスタッフさんに聞いたら、ステージ前の席の人たちは、徹夜、始発組もいたんだって」
ちわ「うわっ、本当スゴイね。でもそれも、なっちゃんの人気の賜物だね」
くわ「あのー、千和ちゃん。あたしゃ、そこまで自分にのぼせてはいないのだよ」
ちわ「えー、違うの?」
くわ「ちげーよ!みんなノン子さんやのび太さん、他のゲストのファンが大勢いるにきまってるのだよ!」
ちわ「ふーん、そうかな・・・。そう言えば、ノン子さんやのび太さんってどんな感じの人だった?」
くわ「あー、それはですね・・・」
ちわ「あっ、待って。他のゲストの方を先に・・・。いや、やっぱりノン子さん達の方を先に。うっ、どっちにしよ・・・」
くわ「はーい、千和ちゃん。あたくは、ノン子さんとのび太さんの方を先に話すので、黙って聞いていてください」
ちわ「・・・はーい」
くわ「まずは日高のり子さんだけど、やっぱり同じ仕事の大先輩だけあって、オーラがありましたねー」
くわ「でも、物腰は穏やかで、本当にキレイな人だったわよ」
ちわ「やっぱり、わたし達の大先輩だもんね。本当にスゴイ人なんだ」
くわ「だから会場に来ていた、特に女の子とかは、ノン子さんに一生懸命声援を送っていたわよ」
くわ「まあとりあえず、あたくしはどんなにがんばっても、ノン子さんの域には絶対達しないと言うことで」
ちわ「えー、そんな事言わないで、なっちゃん一緒にがんばろうよ」
くわ「あたしゃ、絶対無理です。千和ちゃん一人でがんばってくださいな、はーい」
ちわ「なっちゃん、つれないなー。」
くわ「その話は、こっちに置いといて。さて、のび太さん。」
ちわ「ノン子さんは、実際に会ったことなくても、写真とかで見る事出来るけど、のび太さんって全然見たことないね」
くわ「そう、あたしも実は初めて会ったのですよ!まあ、のび太さんは声優じゃなくて、文化放送のアナウンサーさんだから」
ちわ「あっ、そうか。で、どんな感じの人だった?声のイメージと同じような感じだった?」
くわ「あたし、『アニスク』が始まった、中一の頃から聞いていたのだけど・・・」
くわ「声のイメージから、小堺一機さんみたいな雰囲気の人かと思っていたのですよ」
ちわ「じゃあ、会ってみたら全然違っていたとか?」
くわ「まあ、小堺さんには似てなかったけど、声のイメージ通りの温厚な感じの人かな」
ちわ「ふーん、そうだったんだ。そう言えば、なっちゃんは見た目美人だけど、話すと『毒の花』だからねー。」
くわ「千和ちゃん・・・、今度事務所の廊下で見かけたら、ぶっとばすわよ」
ちわ
(やばっ、なっちゃんの事務所って、わたしの事務所のワンフロア上なんだっけ・・・)
ちわ「あ、えとえーと、今度は、なっちゃん達ゲストの方のお話だね」
ちわ「わたし、他に誰が他に呼ばれたのか、すっごく知りたい、知りたいなー」
くわ「・・・、まぁいいわ。今回は大目に見てあげましょう」
くわ「で、他のゲスト? あたしの他は、小林由美子ちゃんと釘宮理恵ちゃん」
ちわ「由美子ちゃんと理恵ちゃんだったんだ。由美子ちゃんは先週に引続きだね」
くわ「そおね、そういうことになるわね」
ちわ「それで、それで!みんな、どんな格好で来たの?」
くわ「はーい、斎藤さん。それもあたしが順序立てて話しますので、静かに聞いてください」
ちわ「はーい、わかりましたー」
くわ「まずはお二方のオープニングから始まって、それから主題歌『Shiny scramble』の1番を歌ったのよ」
くわ「2番の時、あたし達ゲストが3人で入って、数フレーズごとをソロで歌って、最後にみんなで合唱」
ちわ「あ、それなら人前で歌うのが嫌いな、なっちゃんでも問題なしだね」
くわ「うっさいわね。放っといてよ!話すの止めるわよ!」
ちわ「なっちゃん。わたしのツッコミなんか気にしなくていいから、続けて、続けて」
くわ「・・・ったく。で、えーと、どこまで話したっけ?」
くわ「えーと、あ、歌が終わった後に、お二人からお客さんに向けて、あたし達ゲストの紹介があったのですよ」
くわ「それで、みんなの格好なんだけど・・・、まずは由美子ちゃん」
くわ「トップは、辛子色の半袖ドレスシャツ、ボトムはグレーの膝丈カーゴパンツで、白いソフトスキン靴にアンクルソックス」
くわ「アクセサリーで、細かい装飾付いたネックレスと、大きな蝶のバックルが付いたベルトをしてたわね」
ちわ「へー、またいつもの由美子ちゃんらしい格好に戻ったんだね。でもこの前のスカートも似合ってたけどな」
くわ「うーん、由美子ちゃん曰く、スカートを穿くと妙に緊張しちゃうとか言ってたからね」
ちわ「あはははっ、由美子ちゃんらしいね」
くわ「次は、理恵ちゃん。・・・えーと、あれ、どんな格好だっけ?」
ちわ「おーい!なっちゃん、もう忘れちゃったのかよ?」
くわ「あははっ。あの子の場合、どうも言動の方に気を取られるからね」
ちわ「あー、それは分るような気がする。ボイクルの引継ぎのときも、彼女、面白かったからね」
くわ「あれは、面白いってレベルなのか・・・。あーっ、思い出した、思い出した、彼女の格好」
ちわ「なに、なに?どんなの?」
くわ「トップは赤の半袖ニット、ボトムは濃紺、濃緑のボックスチェックのスカートに、紐ブーツに薄手の黒のニーソックス」
ちわ「うーん、ブリティッシュ・トラッド調でいいのかな?」
くわ「そうそう、そんな感じ。あとアクセサリーは、ビーズの3連ネックレスと左腕にビーズのブレスレットが二つ」
くわ「たぶん、あれはセットで買ったものだと思うわね」
ちわ「さて、いよいよなっちゃんだね」
くわ「あら、あたくしの事も知りたくて?」
ちわ「はい、知りたいでーす」
くわ「よろしい。では、あたくしの装い。グレーのノースリーブワンピに、白のハイネック・フレンチスリーブニットの重ね着」
くわ「もちろん、黒のピンヒールロングブーツよ」
ちわ「なっちゃん、もしかして、髪型はこの前のゲームショーの時と同じまま?」
くわ「一週間しか経っていないのよ、そうに決まってるじゃない。ソバージュのままよ」
ちわ「うわー、思いっきりコンサバ系だねぇ・・・」
くわ「なーに、千和ちゃん。何か文句あるの? ・・・で、アクセサリーが・・・」
ちわ「ティファニーのシルバーチェーン・オーバルペンダント!!」
くわ「そうそう、それよ・・・って、えーっ!?何で分ったの?」
ちわ「なっちゃんの持っているアクセサリー中で、その格好に似合うのは、それしかないじゃん」
くわ「うわー、千和ちゃん何だか、ムカツク言い方〜」
ちわ「でもなっちゃん、白のニットを重ね着したって言ったけど、どんなワンピだったの?」
くわ「え、ワンピも当然ニットよ」
ちわ「えー?それ暑くない?」
くわ「あー、あたしのワンピは、よくあるタートルネックじゃなくて、ラウンドネックなのだよ」
くわ「ほら、あたしって、体に熱がこもりやすい体質じゃない、だから中に着るもので調節するようにしてるのよ」
ちわ「でも、なっちゃん本当に今風お嬢様な格好して行ったんだね」
くわ「なによー、そんなに可笑しい?」
くわ「あたしとしては『大人の桑谷夏子をファンの皆様に見てもらいたくて・・・』って感じなんだけど」
ちわ「な、なに、なに?今、セニョがいたよ!『セニョリータ夏子』が。あははっ」
くわ「まあ、ゲストはそんな感じの格好なのだよ。それで歌の後は、席が用意されて少しトークをしたのよ」
くわ「他の二人、由美子ちゃんと理恵ちゃんは、お二方と面識あるからいいけど」
くわ「あたしは全くの初対面だから、すげー緊張しちゃいましたよ」
ちわ「で、またもや猫を被っていたと・・・」
くわ「千和ちゃん、ちょームカツク! あたしゃ人見知りする性質なのっ!」
ちわ「はいはい、そうでしたね分りました。それでなっちゃんは、どんな事話したの?」
くわ「改めてお二方に会った感想とか、仕事の告知とかね」
くわ「そうそう、のび太さんへの感想で、『やっぱり声には性格が表れるので、私も今度から気をつけます』って言ったら、お客さんに笑われた」
ちわ「あっはははははっ!!さすがに『毒舌なっちゃん』はもう有名だからね。あははははっ・・・」
くわ「こんちくしょー、斎藤千和、笑いすぎだっつーの!」
ちわ「・・・はははっ、ごめんね。はははっ・・・。・・・で、他に何かやったの?」
くわ「何か腹立たしいわね。えっ、他に?」
くわ「後は、会場のお客さんを交えて、クイズ大会をやったわ」
ちわ「ふーん、どんな風にやったの?」
くわ「会場から4人の代表を選んで、ノン子さん、由美子ちゃん、理恵ちゃん、あたしと一人ずつペアを組んだのよ」
くわ「それで、のび太さんが進行をやったわ。ちなみにあたしは、女の子と組んだのだけどね」
ちわ「へぇ、ところでクイズはどんな感じだったの?」
くわ「アニスク放送開始当時の、ドラマとか一般的な事と、アニメ関連が交互に出題されたかな?」
くわ「ただ、回答の方法がちょっと特殊だったのよねー」
ちわ「なにそれ?」
くわ「『次はCMがはいります』ってまず答えなきゃいけないのよ」
ちわ「それ、もしかして黒柳徹子さんの物まね?あははっ、似てねー」
くわ「これは確かに自分でも似てないと思うわ。だから、のび太さんが、ニュアンス的に合ってればOK出してくれるけどね」
ちわ「結局、なっちゃんは答えられたの?」
くわ「一応ね。3問目をあたしが正解したけど」
くわ「そのとき、ノン子さんとペアを組んでいたお客さんが、答えようとしてたらしいけど、当然あたしが回答権を取ったわ」
ちわ「え、どうして?」
くわ「だって、あたし腹式呼吸で思いっきり声出したからね」
ちわ「うわー、なっちゃん、一般人相手にえげつなーい」
くわ「しょうがないでしょーが。それに勝負事となると、結構燃えるのよね。あたしってば」
ちわ「なっちゃん、普段は冷めてるけど、そういうところには、とってもむきになるよね」
くわ「あー、もう千和ちゃん。今度会ったときは、ぶっとばすことに決定〜」
ちわ「わー、わー、わー、なっちゃんごめんなさい。お願い顔はぶたないでー」
くわ「あはははっ。なに言ってんだかよ、この子は、まったく」
ちわ「へへへっ、ところでさ、誰が優勝したの?」
くわ「結局、優勝は由美子ちゃんチーム。実は彼女、最終問題までポイントがなかったのよ」
くわ「でもお約束で、最後の問題に回答すると、一挙にプラス5ポイントだったから」
ちわ「本当、お約束な展開だね〜」
くわ「まあ、そんなところだったのですよ。で、最後に全体としての感想を求められたのだけど・・・」
ちわ「どんな感じに答えたの?」
くわ「ほら、さっきも話したけど、ぶっちゃけ『アニスク』は放送当初から聞いていた訳じゃない」
くわ「まさかそれに呼ばれて、出演するなんて、その当時には思いもよらないことなのですよ」
くわ「だから、人生がんばっていればいい事があるなー、って様なことを言ったかな?」
ちわ「そうだよ、なっちゃんがんばろうよっ!わたしもがんばるからさっ」
くわ「うーん、そう・・・ね。・・・でも千和ちゃん、あたしゃ別に、今すぐ全て投げ捨ててどうこうしたいって、思ってないわよ」
ちわ「そうかな?わたし、なっちゃんの言動を聞いていると、時折危ういものを感じるんだけど」
くわ「えー、そう?そうか・・・。千和ちゃん、あたしのこと心配してくれていたんだね。ありがとう」
くわ「でも性格的にがむしゃらに、ってのは向かないから、あたしなりにマイペースでがんばるわよ」
ちわ「うん、なっちゃんは、なっちゃんらしいのが一番だよ。だからこれからも、がんばってぶっちゃけてください」
くわ「ちょっと、今の言葉は、誉め言葉なのかー?」
ちわ「わたし的にも微妙かも」
くわ「何だそれ?・・・ふふふっ、ありがとうね」
ちわ「どういたしまして。・・・へへへっ」
会話が途切れた時、ふと斎藤の視界の中に、目覚し時計が入った。
ちわ「えっ、えーっ!?」
くわ「何?ちわちゃん、どうしたの?」
ちわ「嘘、うそーっ、もうこんな時間なの」
くわ「あら本当、結構いい時間ね」
時計の針は、深夜というよりも明け方に近い時間を指し示していた。
ちわ「うわーん、わたし明日は一限の授業があるのに〜」
くわ「あっはっはっ、大変じゃない」
ちわ「えーん、わたしもう寝るよ。じゃあね、おやすみなっちゃん」
くわ「はいはい、おやすみ、千和ちゃん。・・・あっ」
ちわ「何、なっちゃん?」
くわ「お約束で、寝坊したり、折角書いたレポート忘れたりして、大変な事にならないように。ふふふっ、じゃあね」
ちわ「なめんなぁー!!」
一通り、自分の携帯に罵声を浴びせ掛けると、彼女は我に帰り、ベッドに潜り込もうとする。
だが、そのとき机の上のあるレポートに目がゆく。
そのレポートをそそくさとバッグにしまい込むと、必要以上に目覚し時計を入念にセットして、斎藤は眠りに就くのであった。
(おわり)