クリスマスイブ
街には色とりどりのイルミネーション
歩道には肩を寄せ合う恋人達
わたしは独り荷物を持って帰り道を急ぐ
望「いっけなーい、もうこんな時間」
手には小さいけれどクリスマスケーキが2つ
わたしの好きなチーズケーキ
それとチョコレートケーキ
望「なっちゃん、きっと待ってるよね」
わたしは低く曇った空を見上げた
都内郊外にある私鉄の駅
あたしは左手にしている時計を見た
桑「もっちー、遅いな…」
そしてあたしは灰色の空を見つめた
桑「寒い…」
はぁー、と手に息をかけた
白い息が深い闇へと消えていった
携帯電話がメロディーを流す
あたしがお気に入りな曲
もっちーからの電話を知らせてくれる
桑「あ、もっちー、どうしたの?」
望「ごめんね、なっちゃん。さっき仕事が終わったんだ」
桑「そうなんだ。お疲れ、もっちー」
望「なっちゃん、今どこにいるの?」
桑「うーん…もっちーの家の近くの駅かな」
望「寒いよね、ごめんね……」
桑「大丈夫だって」
そう言ってまたあたしは空を見上げるの
本当は寒いはずなのに
本当は寂しいはずなのに
それはもっちーには心配を掛けさせたくない
あたしができる精一杯の努力なの
飛び乗った電車の窓から空を見上げる
望「本当…雪が降ってきそう……」
隣の席では恋人達が恋を語り合っている
望「今、何時かな…」
わたしはもどかしげに左腕にした時計を見た
それはなっちゃんとお揃いの時計
望「あーあ、早く着かないかな……」
なっちゃんと逢えない、その事実にわたしは苛立ちを憶え
そして、流れる車窓の風景を見ながらわたしはそっと溜息をついた
もっちーから最後の電話があって1時間が過ぎていた
あたしは空になったティーカップを見つめた
桑「もっちー、遅いな…」
桑「電話ぐらいしてくれてもいいのに…」
その時だった
あたしの席の後ろのドアが開いた
がさがさと紙袋のようなものが擦れる音が聞こえた
あたしは思わず後ろを振り返った
望「なっちゃん、ごめんね…」
喫茶店の入口でわたしはなっちゃんをすぐに見つけた
桑「もっちー、メールぐらいしてくれたってよかったのに」
望「うん、そうなんだけど…」
わたしは申し訳ないように両手に持っていた荷物を見せた
桑「もっちー、それ………」
望「うん、今日のパーティーのために買ったケーキだよ」
桑「それじゃメールも打てないわね…」
望「そうなの。遅くなってごめんね、なっちゃん」
桑「別にいいって。じゃ、行きましょ」
そう言うとなっちゃんは私の片手からケーキの入った包みを取った
なっちゃんが触れた手がとても温かかった
もっちーが独りで住むようになったマンション
あたしは失われた時間を取り戻そうとその道を急いでいた
商店街に植えられた街路樹にはクリスマスツリーに似せたイルミネーションが施されていた
そんな通りであたし達と行き交う人の顔はみな幸せそうだった
あたし達もその中のひとりだと思っていた
望「なっちゃん、待ってよ…」
あたしの背中越しにもっちーの声が聞こえた
桑「どうしたの?早く帰ろうよ、もっちー」
望「そうだけど…」
その時のあたしはまだ知らなかった
望「イルミネーションとか見ながらもう少しゆっくり歩こうよ」
桑「どうして?」
望「わたし、さっきまでずっと寂しかったから」
桑「え?」
望「わたし、仕事が終って帰ってくる時ね、すっごく羨ましかったの」
桑「………」
望「すれ違う人達はみんな恋人同士でしょ。わたしだけ独りだったんだもん」
もっちーがここに来るまでにずっと寂しかったということ
桑「分った。ごめんね、もっちー、一緒に歩こう」
望「うん」
あたしは空いている手をもっちーの手に絡めた
もっちーはその手をそっと握り返してくれた
華やかな街並をすぎるとそこは閑静な住宅地だった
わたしの引っ越したマンションはそんな一角に建っていた
誰もいない部屋のドアを開け室内の明かりをつけた
居間に置かれた脚の短いテーブルの上に買ってきたケーキとオードブルが置かれた
わたしは今日のために予め買っておいたシャンパンとワインをその横に並べるとケーキの上の蝋燭に灯をともした
桑「さあ、始めましょうか」
望「うん。メリークリスマス、なっちゃん」
桑「メリークリスマス、もっちー」
わたしは蝋燭の灯を見ていた
望「幻想的で綺麗だね、なっちゃん」
桑「そうね、もっちー」
なっちゃんはそういってわたしの瞳をじっと見つめていた
わたしもじっとなっちゃんの瞳を見つめ返した
やがてお互いの距離が縮まるとわたし達は目を閉じて唇を重ねた
そして時間が経つのを忘れるくらいに愛し合った
ホワイト・クリスマス
窓の外では白い雪が降っていた
わたし達を包み込むように静かにそっと降っていた