「はじめてのそろまきし」
望「あ、もしもし、望月ですけど…なっちゃん?」
桑「あ、もっちー。もっひさー」
望「それ、ちょっと恥ずかしいよー」
桑「うふふ、照れるもっちーもかーわい」
望「もう!なっちゃんキライ」
桑「あら、いいわよ。もっちーに嫌われたって、もっちーのこと好きなのは変わらないもん」
望「もー、なっちゃんてば…」
桑「まぁ、時候の挨拶はここらへんにして、どうしたの突然電話してきて」
望「あ、そうそう。さっきレコーディング終わったんだけど」
桑「おつかれさま、どう?うまく録れた?」
望「うん、それがさ…」
◇
スピーカーから流れる望月の声をレコーディングスタッフが細かく聴き分け小声で何事か囁きあっている。
ディレクター(以下D)「はーい、ストップストップ」
慇懃無礼なディレクターの声が望月の歌声に割り込んでメロディーが止まった。
既に疲労の色濃いスタッフが腕組みして見守る中、大きなガラスの内側で望月はマイクの前で立ち尽くしていた。
D「さっき注意したところ直ってないよ。やり直そ」
望「……あ、はい。ごめんなさい、本当にごめんなさい。」
D「マネージャーさん、望月さんちょっといっぱいいっぱいみたいだからちょっと休憩入れよ」
マネージャー(以下マ)「はい、すみません。よく言ってきかせますんで」
D「みんな30分休憩ね。おつかれさん、14時再開ね」
スタッフ達はどやどやと部屋から散っていく。
望「あの、望月なら大丈夫です。休憩挟まなくても…まだいけます」
しかし、望月とマネージャーを残して、他のレコーディングスタッフは部屋を出ていってしまった。
望「………。」
足元をじっと見つめながら小さく震える望月。
マ「ひーたん、曲流すから、みんなが戻ってくるまで声出さないで聴いててごらん」
そういいながらマネージャーは再生のボタンを押してやはり部屋を出て行ってしまった。
桑「ふんふん、それで?」
望「でね、一人で残ってて、あー、望月やっぱ独りじゃだめだなぁーって思いながらその曲聴いてたら」
◇
望月はマネージャーに言われたとおりひとりでマイクの前に立ちメロディーを一生懸命聞き取っていた。
望「ふんふふんふーん♪………んっ……ぐすっ………すん」
しかし、次第に肩と首が下がりその場に崩れ落ちそうになってしまう。
桑「ファイト、もっちー」
望「えっ」
涙を浮かべていた瞳が一瞬で驚きの色に染まり、そして輝きを取り戻す。
ヘッドフォンからは変わらずAngelSmileの主旋律が流れているはずなのに。
桑「写真の時といっしょよ、マイクの前には全国のお兄ちゃんが…」
望月は両肩にあの暖かい手のひらが乗せられた錯覚を覚えた。
桑「そしてあなたの後ろにはいつもワタシがついてるんだから、大丈夫」
◇
望「と言うわけでね、なっちゃんが前にアドバイスしてくれたこと思い出したらね、それからうまく歌えるようになって」
桑「ふふ、よかったわぁ、お役に立てて」
望「ホンットだめだよね。ホンットひとりじゃ何もできないんだなぁ」
桑「ふふ、いいのよー、これからもお姉さんをどんどん頼りなさい」
望「はーい!」
(終わり)