『はじめまして〜!水樹奈々で〜すぅ♪』
言ってから絡み合わせた指先をもじもじと動かし、恥じらったような仕草をしてみせる。
そんな彼女をシスプリの仕事で目にした瞬間、私は直感的な敵愾心を抱いていた。
なんて──なんて厭味な子なんだろう。
上辺だけの笑顔で他人を悦ばせて、その実、何を考えているのか読ませない態度。
そう、彼女が他人に見せるのは、常に満面の笑顔だけだった。
(まるで、他人に媚びていながら貶めているみたい)
傲慢で、独り善がりも甚だしい。自分こそが一番だと思っていなくては出せない表情だ。
私の悪寒はそのまま、苦手意識という形を持って擦り込まれた。
それからというもの、私と奈々ちゃんの関係は体裁上の馴れ合いとして平行線を辿っていた。
嫌いではないけれど、敬遠の対象。性格の合わない妹がいるとしたらこんな感じになるのかな、とも思った。
それなのに、こうして目の前でうたた寝をするこの子は──
奈々ちゃんは、これまでに見てきた何ものよりもずっと小さくて、壊れそうに華奢だった。
長く整った睫、吐息に揺れる桜色の唇。木目細かい肌に彩られた奈々ちゃんは、口惜しいくらいに可愛らしい
女の子の貌(かお)をしていた。
(……奈々ちゃん)
私が息を呑む音にならない音に反応したのか、奈々ちゃんの瞳が見開かれた。
さっと、表情に緊張の色が走る。
「あ、待って!」
思わず口をついて出た言葉に、軽く私自身が驚いていた。
「──?」
小鳥さながらに、微かに首を傾げてみせる奈々ちゃん。
明らかに、『その場にいるのに待ってとは、どういう了見だ』と詰問する仕草だ。
その愛らしくも挑発的なポーズは、既に普段の奈々ちゃんと同じ自信を感じさせた。
「……うーん……『逃げないで』、かな?」
「『逃げる』?……逃げるって、何?」
細く高めのメロディーラインが場に通る。
「あ、えーっと……ごめん、言っといてなんだけどあたしにもわかんないや。
でも何かこう、軽ーくそんな感じがしてさぁ」
意思の強そうなツリ目の視線。こうやって真正面から見るのは久しぶりかもしれない。
でも、今は何となく分かってしまっていた。その意思がどの様にして成立しているものなのか。
(ううん、きっとそうじゃないんだ)
怖かったのだ。素顔の奈々ちゃんと向き合うには、自分の弱さを曝け出さなければならないのだから。
『偽りの笑顔』と『見せかけの虚勢』が共感することなんて有り得ない。
だから、今まで気付いていたのに、気付かないようにして来ただけだった。
「……言いたいことがあるなら、聞くけど?」
「……まぁぶっちゃけて言うと、特にないんだけどね」
「あはは、なにそれ……じゃちょっとだけ、こっちに来てみて」
言われて、ほんの少し距離を縮めるや否や、奈々ちゃんの細い腕が私を抱き寄せていた。
【…→ To be continued】