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「…なんで、あたしの行く先々に現れるかな」
 屋上の扉を開け放った瞬間、溢れる陽光に混じって通りの良い声が降って来た。
数歩進んで頭上を省みると案の定、開放口の上に寝そべった由美子がいる。
 気ままな猫のように伸びをすると、俺の横に飛び降りた。
 一瞬、俺の頬にひやりと冷たい感触が走る。
(……水?)
 抜けるような青空の下で、ただ一滴だけ生まれ落ちた雨。
「目障りなんだよ」
 その口調は、いつも仲間内で振舞うそれとは明らかに違っていた。微かに
目を腫らし、居丈高に構えてはいるが、どこか疲れたような印象を受けた。
「何で…なんでだよぉッ!」
 言って拳を振り上げ、猛然と掴みかかってくる。
 しかし、そのまま彼女の拳は力無く下がり、反射的に身を固くした俺の胸の上に
落ちてきたのは、由美子の額だった。
「いつも、いつも…!辛くなんて無い、淋しくなんて無いって…必死に、そう
 思いこもうとしている時に限って、ひょいひょい現れてさ…」
『笑ってこう!笑ってこう!あたしに生まれてこれてよかった』
 それは、いつだって彼女が口癖のように話していたことだ。
 でも、今の彼女は……俺の胸の中で小さく震えて、泣いていた。
 そこらの男以上に明るくて、元気で、憧れすら感じさせるしゅびっち。
それなのに、今の彼女は、切ないほどに痛々しくて、弱くて……そんな由美子を
抱きしめる事もできず、徒に宙をさ迷う両手が、もどかしかった。
 夢に向かって羽ばたきたい。しかし、苦しい家計を考えると、それを
口に出すことすら許されない。
 俺は、今まで自分が普通の高校生だと思っていた。でも、それがどんなに
ぬるま湯に浸かって、のうのうと生きてきた事の証明であるかを知らしめられた。
 俺は今はじめて、心の底から誰かの為に何かをしてやりたいと願った。

「……桑谷さん、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

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