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今夜の番組チェック

 

 

店先の赤電話のダイヤルを廻し、奈々ちゃんの事務所に連絡を取る。
さすがに対応のよい事務所らしく、たまたま映像を見ていた職員がすぐに
既に球場にマネージャも回させたとのこと。
こうなるともうじっとしていられず、店を飛び出し私達は日の出町の駅に急いだ。
丁度川崎行きの急行が入線してきたので、これに飛び乗り新町から先行の特急に乗り換え
とにかく、先を急ぐことにする。
青い車内灯が不思議な空気を醸している、特急電車はわたしたちの期待に
こたえるように車体を激しく揺らしながら京浜間を北へ北へと疾走する。

桑「奈々ちゃん・・・どうなっちゃうんだろ?」
小「声優界で奈々ちゃんの味方はわたしたちしかいないんだから」
桑「そうね・・」
小「今回のことは
桑「もしかしたら、もうPritsとしての活動は・・・」
小「今は悪いことは考えるな」
桑「でもこのままじゃ」

これ以上会話を交わしても仕方ないと思い、それ以降わたしは黙ったいた
品川駅の高輪口でタクシーを拾い、後楽園へ。
金曜の夜でも街路の交通は少なく、札の辻を経て芝公園から首都高速
100kmを越す速度計の針にももどかしさを感じる。

高速を離脱すればほどなく後楽園球場の黒いシルエットが聳えている。
車がゲートに横付けされると、お釣りはいらないからと五百圓札3枚を差し出して、
私たちはタクシーを飛び出した。
 既にゲームは終わり、先ほどの騒動の後味の悪さがまだ球場を支配しているようだった。
入場門の係員はいなくなっていたので、私たちはそのままゲートを素通りして場内へ。
照明はまだ落とされていないようで、空白のダイモンドに反射するカクテル光線が空しい。
 通路を往来する人もはすでになく、あの2人がどこにいるのか皆目わからないがじっとしていられるはずもなく
ただ場内をうろうろしていた。
桑「どこにいるんだろ・・・あの2人・・」
右往左往するうちに、ジャンボスタンドの最奥のあたりまで行くと、
そこに久代が不安げな表情を浮かべて扉の表に立っていた。
桑「もっちーどうなってるの!?」
望「この中に・・・・・」
 重い鉄の扉を開け、私たちは部屋の中に飛び込んだ。
 奈々ちゃんは警備員室の椅子に俯き気味に、大きな瞳に涙を浮かべて坐っていた。
奈々ちゃんの事務所のマネージャーは何度も頭を下げ、今回のことは外部に漏らさないでほしいと頼んでいる。
最後は無理やりという感じでマネージャが警備員を拝み倒し、
彼女もしぶしぶという表情ながら、始末書を事務的にとりはじめた。
 結局もう二度としないからということで、何とか奈々ちゃんは警察に突き出されることもなく解放された。
長身に短髪、スカートよりパンツの方が似合いそうなマネージャもやれやれといった風で奈々ちゃんの肩を抱いていた。

水「ふう、助かったわい」
小「何でこんなことしたんだ?」
水「う〜ん思わず熱くなりよって、先に手がいきよって瓶をほかしたけん」
桑「でも、一言くらい謝ってもよかったんじゃない?」
水「ごめん、忘れてとった」

既に奈々ちゃんの瞳に涙はなかった。

桑「あれさっきまで泣いてなかった?」
水「昔、ゲームソフトをぱちってつかまったときも涙流して反省しとうふりして許してもらったことあるけん」
桑「それは嘘泣きってこと?」
水「やっぱり涙を見せとっとファンの反応が違うかい、去年の国際フォーラムのときなんてもう」

 うまく泣くのも役者の技術の基本だとは思うけど・・・・・・
それにしてもこんな性格ではと思うのだが、私もしゅびっちもなかなかそのことが口に出せない。
こういうことがあったのだし、今日こそはと思ったが結局言葉を引っ込めてしまう。

水「じゃあ私は明日は朝からライブの練習があるけん」
安堵の表情を浮かべたマネージャと一緒にタクシーに乗り込む奈々を見送り、
わたしたち3人も少し冷たい湿った風の街路を、ゆっくり歩く。
都電はもう終わっているようなので国電に乗るしかないだろう。

桑「奈々たんの事務所は所属してる声優をきちんと守ってあげるのね」
小「うちはなあ、あの事件の時でさえ宮村さんを放り出したくらいだからな」
桑「金銭トラブルも多いよね、林原さんのフリ−転出騒ぎとか」
小「正直・・・ミューラスのが居心地よかったな」


水道橋の駅はさほどの距離になくあっさり改札口にたどり着いてしまった。

小「じゃあ僕は東行きだからな。今日は本当に疲れたぜ」
桑「ばいばい。しゅびっち」

ようやくもっちーと2人になった私は
水道橋から国電に揺られ、神田川の黒い濠を眺めつつ疎らになったネオンサインに包まれた市街を進む。

望「なっちゃん、ごめん。望月、何も力になれなくて・・・・」
桑「いいのよ、もっちーの責任でこうなったことじゃないんだし」
望「でも奈々ちゃんを守ってあげたかったの」
桑「もっちーにそんな力はないでしょ」
望「望月、昔は鉄パイプで警官をのしたこっとだってあるもん」
桑「・・・・・・・・・・」
望「でも今の大学生みたいに火炎瓶は使わなかったよ」
桑「そういう比較の問題じゃないでしょ・・・・・・」
望「あのときは反省してるふりしたから、留置場に2週間いるだけで済んだの」
桑「プリッツのMMっていったい・・・・・・」

2人で話していると時間は早く、数分しか経ないような気がするのに電車は既に新宿に着いていた。

桑「降りないの?」
望「えへへ・・今夜は阿佐ヶ谷のさえちゃんの家に泊まるから」

私ともっちーの間に少し乾いた風が吹いた。

 京王の列車は既になく、小田急の新原町田行き最終快速ですし詰めにされて20分、
稲田登戸の駅の今日2度目のタクシー乗り場に私は並んだ。